カンボジア資本と日本のマネジメント、連携のシステム

新規就農にあたり問題となるのは、資金、技術習得、農地の確保だと言われます。

新興国ではこれに加え、「人」の問題が非常に大きなものとなります。
日本人の必要とするだけの稼ぎを新興国で得ようと思ったら、人を雇う規模でやるしかありません。
そして新興国の労働力が安いことは確かですが、それは確実に品質とのトレードオフです。

カンボジアでもこの「人」の問題をにらみながら、経営資源を組織化していくことがとても重要です。

またそれは目指す経営スタイルとの兼ね合いでもあります。
そこで、ここでは


  • 新興国であり得る経営スタイル
  • 人的資源等の現実
  • それらを鑑みた効果的な経営システム例

についてお話したいと思います。


2つの経営スタイル

新興国では大きく分けて2つの経営スタイルがあると思います。

1つは現状儲かるものを見つけて、早く簡単に儲かりそうなポジションに入りこむスタイル。

もう1つは現状を改善し、よりよい状況を作りながら持続的に儲けていくスタイルです。

前者はある意味リアリズムですが、日本人はやはり後者が向いているのではないかと思います。

今儲かることをやる

カンボジアでは中華系の人びとがあちこちでビジネスをしています。
彼らのビジネスの印象は「とにかく今儲かることをやる」です。

例えば精米所をやるなら、農家から買う原価があり、精米所の経費があり、市場の売価があり、その差し引きがプラスならやる。

何か工夫して売価を上げるとか、農業の現場とコラボレーションするとか、あまりそういう発想はありません。
市場価格が下がれば農家からの買値を下げるだけです。

現状で利益の出る条件であればやりますが、特に農業に興味があるわけではなく、儲からなければやめて他の仕事に資本を振り向けます。

ビジネスを育成して大きく儲ける

上記のやり方はドライで合理的ですが、焼畑農業的な局所解であり持続可能とも思えません。
あまり日本人には向かないのではないかと思います。

もう1つのスタイルは、時間をかけて現場を育成しつつ品質向上していくようなやり方です。

支えてくれている農業の現場を守るような意識や、品質にこだわってしまう傾向が自分にあるなら、そういう腰を据えたアプローチが必要です。
そしてより大きなリターンを狙うのです。

私がお手伝いするのも基本的にこの方向です。

人的資源の現実

上に書いた焼畑農業的なビジネス以外にも様々な要因があり、それは新興国の労働力が低品質であることと表裏一体です。

頑張ってもひたすら今の状態が続くだけ、それどころかともすれば値下げの圧力にさらされるという現実が、農業の現場にはあります。
努力して向上していくインセンティブが無いのです。

現場を育てていいものを売りたいのであれば、まずその現実を知ることはとても重要です。

農家の取り囲まれた構造

カンボジアで大量に生産されている米は、かなりの部分が公然と密輸出されています。
当然関税などが支払われることはなく、税金として社会に還流するべきお金が、そのまま流通業者の懐に入っています。

またカンボジアの米は籾のまま流通しています。
すなわち籾を買い付けた精米業者が、籾殻や糠といった付加価値を全部持っていってしまうのです。

さらに昨今、米の国際価格が下落しましたが、精米業者からは単純にその分の値下げを迫られます。
現在カンボジア農家は再生産価格ギリギリで米を売ることを強いられているのです。
米はほとんどの農家が作っている主生産物であり、生産・流通に国がテコ入れすれば多くの国民が潤い、政府の税収も増えるのは間違いありません。

しかしプノンペンの不動産バブルとは対照的に、そのような大局を考えた動きは非常に鈍いのが実情です。

農家の意識

この構造に組み込まれた農家は、自分の仕事をどのように感じているでしょうか。

彼らの典型的な意識はこうです。


  • 頑張ってもたいてい報われない
  • ただでさえいろいろ不安定なのに、さらにリスクを取ってやり方を変えるなんてしたくない
  • このままの収入でも農村では暮らしていけないということはない

これは彼らの取り囲まれた状況からすれば、ある意味合理的な帰結です。

簡単に30%収量が増えるならやりたいですが、数%程度なら手間を増やすより、近所とおしゃべりしていたいのです。
個々の農家の力で彼らの埋め込まれた構造を変えることはできないので、彼らの自助努力をベースにする限り、その意識は変わりません。

スピーディに効果を出す経営システム

こちらにまとめましたが、農業経営にはどうしても投資回収までに年単位の時間がかかります。

>> 農業投資回収にかかる時間(仮)

人的資源の状況も考えると、短期にすぐ投資を回収するプランはあまり現実的ではないことは、お分かりかと思います。

そこでこの人的資源の質、農業投資回収に時間がかかるという現実を踏まえ、


  • 長期的に大きなリターンを見込む
  • 持続可能で発展的な経営スタイル
  • しかし最大限スピーディに収益を生み出す

ような経営システムを考えてみました。
自前で利益を全部押さえないという前提にはなりますが、十分実現可能と考えています。

必要なのは、安い労働力を雇い入れて自前で農場を経営するということではなく、

もっとカンボジア人の持つハード・ソフト両面のリソースを巻き込む

形の新しいシステムを構築する、ということになります。

カンボジア人の持つリソース

ハード(土地・資材)、ソフト(技術)ともにカンボジア人自身が持っているものは少なくありません。

カンボジアの農業系大手企業は全国に大規模な圃場を所有しており、安定した供給先もあります。

カンボジアには肥料などの資材も種類は少ないもののちゃんとあるし、肥料のもとになる牛糞などはほぼすべての農家に牛がいるので集めることは可能です。
また肝心の技術者ですが、土地や気候に不慣れな日本人では限界があります。
しかし現地に生産農家は沢山います。

実はカンボジア農家の生産技術は決して低くありません。素晴らしい野菜も沢山生産されています。
ただ、お金がないので増産できないし、売り方がわからないのでたくさん作らないだけなのです。

だから技術は彼らから学べばいいのです。
そして現地の農家からもっとも効率的に学べるのは、やはりカンボジア人の若者です。

プノンペンには農家出身の若者がたくさん出てきています。
彼らが田舎に帰ってくれば、母国語で技術を学べる先生がいくらでもいるのです。

日本の生産管理を持ち込む

このカンボジア人の持つリソースを活かすため、日本人がカンボジア企業から農地を借り受けます。
その企業や日本の支援者(企業・個人)が資金を出し農場を作ります。

そして生産管理を日本人が行い、それに必要な資材や散水システムを整備します。
そしてカンボジアの若者を雇い入れ、カンボジアの優れた農家に技術を学んでもらいます。
その上で改善点があれば時間をかけ少しずつやり方を変えていく。

そうして既に作られている高品質な野菜を増産したり、さらに品質を上げる体制を作り出すのです。

すべてが順調にいくには数年かかると思われますが、多くの経費は生産物の売り上げで賄うことができます。
カンボジア企業と連携しているため、売り先には困らず、価格も安定するからです。

カンボジアのリソースを取り込む意味

上記のシステムの特徴は、以下を積極的に取り込んでいることです。


  • カンボジア企業のハード(土地・資材)、地域のハード(資材原料)
  • カンボジア企業のソフト(販路・のれん)、農家のソフト(技術)

その中で現地の若者が未来の担い手として育成されていきます。

日本人からすれば、これは既存のシステムに日本人が参画することでパフォーマンスを上げ、その貢献分の利益をシェアしてもらうというものです。

自前で生産から販売まで抱えるよりも利益の総量は減りますが、その分スピーディかつ低いリスクで進めることが可能です。

本当は農業をやりたい若者たち

現在、カンボジアの若者の多くは唯一の大都市であるプノンペンに出てきて働いています。
しかし実は農業に情熱を持っていて、未来があるなら農業に携わりたいと考えている若者も少なくはありません。

しかし田舎に帰ってくると前述のような雰囲気が蔓延していて、日本へ研修に行ったことのあるような人だと焦りを感じることも多いとか。

そして多くは徐々にその雰囲気に飲み込まれてしまいます。

モチベーションを活かす

そこでこのシステムでは、特に現状の人的資源のリスクに対応しています。
その根底に深く横たわる「やる気」の問題を見据え、その上でどう人材育成するかをシステムに組み込んでいます。

まず同じカンボジア人の農家から学べるので、若い人材は農業を学びやすくなります。
これはモチベーションを持つ都市部の若者の参入のハードルを下げます。

そして学びつつ仕事する中で、よりスピーディに結果が出るため、努力と結果が結びつく経験を得やすくなる、というのがポイントです。

モチベーションのある人を、その熱が冷めないように取り込み、ビジネスとともに成長してもらうのです。

日本人の参与で大きく育てる

このシステムでは日本人が管理することで栽培履歴がしっかりするので、スーパーやレストラン、ホテルなどに自信を持って納品できるようになります。

またこのシステムの最大の前提は、需要家の要望を取り入れた多品種生産です。
土地、技術、販路そして生産計画と管理。

これらが一体にならなければなりませんし、今できていないそういう部分にこそ日本人がカンボジア企業のツテも活かしつつ、活躍せねばなりません。

そうして日本人が関わる中で実際に出てくる成果を見せ、ワーカーを単なるワーカーで終わらせるのではなくリーダーを育成し、現場に力を付けさせていくのです。

というわけでここでは、カンボジア農業の置かれた状況を直視した上で機能するシステムを考えました。
もちろん他のどんなシステムでも構わないのですが、新興国で結局行き着くのは「人」の問題です。

目先の利益を追求するスタイルではなく、


若者を支援し、マネージャを育て、時間をかけて大きなビジネスに飛躍させる仕組みを構築する

ということ。

それは綺麗ごとではなく、そうしてしか新興国の農業ビジネスはうまく行かないのではないか、と考えています。

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